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神戸地方裁判所 昭和62年(ワ)1396号 判決

原告(反訴被告)

株式会社松本医科器械

ほか一名

被告(反訴原告)

岡村政範

主文

一1  原告(反訴被告)等と被告(反訴原告)間で、原告(反訴被告)等の被告(反訴原告)に対する別紙事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務が金二四二五万八一八一円を超えて存在しないことを確認する。

2  原告(反訴被告)等のその余の請求を棄却する。

二1  反訴被告(原告)等は、反訴原告(被告)に対し、各自金二四二五万八一八一円及び内金二三三一万三一八一円に対する昭和五八年九月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  反訴原告(被告)のその余の反訴請求を棄却する。

三  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを二分し、その一を原告(反訴被告)等の、その一を被告(反訴原告)の、負担とする。

四  この判決の主文第二項1は、仮に執行することができる。

事実

以下、「原告(反訴被告)株式会社松本医科器械」を「原告会社」と、「原告(反訴被告)辻正素」を「原告辻」と、「被告(反訴原告)岡村政範」を「被告」と、略称する。

第一当事者双方の求めた裁判

一  本訴

1  原告等

(一) 原告等と被告間で、原告等の被告に対する別紙事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務が金一八二九万九二〇四円を超えて存在しないことを確認する。

(二) 訴訟費用は、被告の負担とする。

2  被告

(一) 原告等の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告等の負担とする。

二  反訴

1  被告

(一) 原告等は、被告に対し、各自金三〇〇〇万円及び内金二九〇五万五〇〇〇円に対する昭和五八年九月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は、原告等の負担とする。

(三) 仮執行の宣言。

2  原告等

(一) 被告の反訴請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は、被告の負担とする。

第二当事者双方の主張

一  本訴

1  原告等の請求原因

(一) 別紙事故目録記載の交通事故(以下本件事故という。)が発生した。

(二)(1) 原告会社は、本件事故当時、原告車を保有していた。

(2) 原告辻は、本件事故現場が右方へカーブする下り坂であり、しかも、折からの降雨で路面が湿潤し、車両が滑走しやすい状態であつたにもかかわらず、原告車を時速七〇キロメートルの速度で進行させた過失により、右地点付近でギヤチエンジにより速度を落とそうとした際、右車両が滑走し、本件事故が発生した。

(3) よつて、原告会社には、自賠法三条により、原告辻には、民法七〇九条により、被告の本件損害を賠償する責任がある。

(三) しかして、被告は本件事故により受傷したところ、同人の本件損害は、金一八二九万九二〇四円を超えて存在しない。

しかるに、被告は、原告等の右主張を争い、被告の本件損害は原告主張の右損害額以上に存在する旨主張している。

(四) よつて、原告等は、本訴により、原告等と被告間で、原告等の被告に対する本件事故に基づく損害賠償債務が金一八二九万九二〇四円を超えて存在しないことの確認を求める。

2  請求原因に対する被告の答弁

請求原因(一)、(二)の各事実は認める。同(三)中被告の本件損害が金一八二九万九二〇四円を超えて存在しないことを否認し、同(三)のその余の事実は認める。同(四)の主張は争う。

被告の本件損害が原告等主張の金額を超えて存在することは、後叙反訴請求のとおりである。

二  反訴

1  被告の反訴請求原因

(一) 本件事故の発生、原告等の本件責任原因は、本件請求原因(一)、(二)のとおりであるから、これを援用する。

(二) 被告の本件受傷内容及び治療経過

(1) 頭部外傷Ⅱ型、左脛骨骨折、左足開放性複雑骨折、楔状骨脱臼一部壊死、顔面切創、右手肢関節部切創、右膝関節打撲傷。

(2) 劉外科病院 昭和五八年九月二一日から昭和五九年三月三一日まで入院。(一九三日間)

同年四月一日から昭和六一年八月二九日まで通院。(実治療日数三四三日)

(3) 昭和六一年八月二九日症状固定。

後遺障害等級一〇級一一号該当の後遺障害が残存。

(三) 被告の本件損害

(1) 治療費 金六七五万四九三〇円

(2) 入院雑費 金一九万三〇〇〇円

被告の入院期間一九三日につき一日金一〇〇〇円の割合。

(3) 入院中の付添看護料 金四〇万八〇〇〇円

被告の本件入院期間中昭和五八年九月二一日から同年一二月三一日までの一〇二日間、被告の家族が付添看護に当たつたことによる費用一日当り金四〇〇〇円の割合。

(4) 装具代 金五万六〇五〇円

(5) 交通費 金五七万七一〇〇円

(6) 休業損害 金二六九五万円

(イ) 被告は、本件事故当時、阪急六甲駅北側において、「りんご白書、ポプリの部屋」という名称でポプリ及びその関連商品の卸し、小売等の自営業を営んでいた。

(ロ) 被告は、右営業のためアルバイトを店番として雇つていたが、事実上一人で右営業を行い、本件事故当時、事業主として金五〇万円の収入を得、更に月額平均金一一〇万円の剰余収益を生ぜしめていた。

したがつて、被告は、右営業による収益として少くとも月額金一一〇万円を得ていたというべきところ、同人の右営業に対する寄与率は、少くとも七〇パーセント相当というべきである。

(ハ) 被告は、本件受傷のため昭和五八年九月二一日から昭和六一年八月二九日までの一〇七四日間休業せざるを得なかつた。

(ニ) 右各事実を基礎として、被告の本件休業損害を算定すると、金二六九五万円となる。

金110万円×0.7×35か月=2.695万円

(7) 本件後遺障害による逸失利益 金三九七七万七〇九一円

(イ) 被告に障害等級一〇級一一号該当の後遺障害が残存すること、同人の本件事故当時の収入が一か月金一一〇万円であつたこと、同人の右収入に対する寄与率が七〇パーセント相当であることは、前叙のとおりである。

(ロ) 被告の右後遺障害による労働能力の喪失率は二七パーセントであり、右労働能力の喪失期間は、同人の就労可能期間と同じく六七歳までの二五年間である。

(ハ) 右各事実を基礎として、被告の本件後遺障害による逸失利益の現価額を、ホフマン式計算方式により算定すると、金三九七七万七〇九一円となる。(新ホフマン係数は、一五・九四四)

(110万円×0.7)×12×0.27×15.944=3,977万7,091円

(8) 慰謝料 金六四八万円

(イ) 入通院分 金二四五万円

(ロ) 後遺障害分 金四〇三万円

(9) 弁護士費用 金九四万五〇〇〇円

(10) 以上、被告の本件損害の合計は、金八二一四万一一七一円となる。

(四) 損害の填補

被告は、本件事故後、自賠責保険金金三三二六万〇二八〇円を受領した。

そこで、右受領金金三三二六万〇二八〇円を本件損害の填補として、被告の本件損害金八二一四万一一七一円から控除すると、右控除後の右損害は、金四八八八万〇八九一円となる。

(五) よつて、被告は、反訴により、原告等に対し、本件損害合計金四八八八万〇八九一円の内金三〇〇〇万円及び弁護士費用金九四万五〇〇〇円を除いた内金二九〇五万五〇〇〇円に対する本件事故日である昭和五八年九月二一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  反訴請求原因に対する原告等の答弁

反訴請求原因(一)、(二)の各事実は認める。同(三)中(1)、(4)、(5)、(8)(ロ)の各金額、同(2)の入院期間及び入院雑費の支出、同(3)の一日当りの金額を除くその余の事実、同(6)中(イ)、(ハ)の各事実及び被告の本件休業損害が金一九三四万〇三六七円の限度で存在すること、同(7)中被告に損害等級一〇級一一号該当の後遺障害が残存すること、被告の本件逸失利益が金一七五二万〇二三七円の限度で存在することは認めるが、同(三)のその余の事実及び主張は全て争う。同(四)の被告における受領の事実及びその受領金額は認めるが、その余の事実は争う。同(五)の主張は争う。

原告等は、被告主張の本件損害中本件休業損害及び本件後遺障害による逸失利益の金額について特に次のとおり主張する。

(一) 本件休業損害について

(イ)(a) 被告は本件事故当時ポプリの卸し小売販売をしていたが、税金の確定申告をしていなかつた。したがつて、被告が右事故当時その主張する収入を得ていたことの確たる証拠がない。更に、ポプリの販売は、所謂ブームがあつて収入の変動が大きいと考えられる職種である。確に、ほんの一時期、ポプリがデパート等に設けられた大きな販売コーナーにおいて販売されたことがあつた。しかし、それも短期間であり、現在では、デパート等のポプリ販売コーナーも急速に縮少されてしまつた。したがつて、被告の本件休業損害算定の基礎収入として、被告主張の金額を採用することは、ポプリ販売業の右実情から見て相当でなく、右基礎収入の確定は、賃金センサスによらざるを得ない。

(b) 右見地にしたがい、被告の本件休業損害を算定すると、次のとおりとなる。

昭和五八年度は、同年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計(以下同じ。)の三五歳~三九歳の男子の平均賃金(以下同じ。)日額金一万二〇〇四円に昭和五八年九月二一日から同年一二月三一日までの日数を乗じ、昭和五九年度は、同じく四〇歳~四四歳男子の平均日額金一万三七七六円に三六六日を、昭和六〇年度は、同じく四〇歳~四四歳男子の平均日額金一万四一九九円に三六五日を、昭和六一年度は、同じく右日額金一万四一九八円に昭和六一年一月一日から同年八月三〇日までの二四四日を、各乗じて、その各年の各結果を合計すると、その金額は、金一四八八万五二一七円となる。

(ロ) ところで、原告等は、被告との話合いで、原告等において被告に対し休業損害名目でテナント料一か月当り金一二万七二九〇円(家賃金一〇万円、管理費金二万七二九〇円。)の支払をしていた。

そこで、右金一二万七二九〇円の三五か月分に相当するテナント料を本件休業損害名目で計上すると、その合計は、金四四五万五一五〇円となる。

(ハ) よつて、被告の本件休業損害は、右(イ)における金一四八八万五二一七円と右(ロ)における金四四五万五一五〇円の合計金一九三四万〇三六七円となる。

(二) 本件後遺障害による逸失利益について

(イ) 本件後遺障害による逸失利益算定の基礎収入についても、本件休業損害算定の場合と同じ理由から、賃金センサスによるのが相当であるところ、右基礎収入は、平均賃金年額金五一八万二九〇〇円とすべきである。

又、被告の本件後遺障害の内容である足関節障害による労働能力の喪失率は、所謂慣れも働き、体を動かすことによつて徐々にその喪失率が低減して行くというべきである。

(ロ) そこで、被告の労働能力の喪失率を、当初一〇年間を二七パーセント、それに続く五年間を二〇パーセント、更に五年間を一五パーセント、その後の五年間を一〇パーセントとして計算すると、合計金一七五二万〇二三七円となる。(詳細は、別紙計算書のとおり。)

第三証拠関係

本件記録中の、書証、証人等各目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一本訴

一1  請求原因(一)、(二)の各事実、同(三)中被告の本件損害が金一八二九万九二〇四円を超えて存在しないことを除くその余の事実は、当事者間に争いがない。

2  右事実によれば、原告会社には、自賠法三条により、原告辻には、民法七〇九条により、被告の本件損害を賠償する責任があるというべきである。

二1  ところで、原告等は、本訴において被告の本件損害が金一八二九万九二〇四円を超えて存在しない旨主張する。

しかしながら、被告の本件賠償が合計金二四二五万八一八一円であることは、後叙反訴請求に対する判断において認定説示するとおりである。

2  右認定説示に基づくと、原告等の本訴各請求は、原告等の被告に対する本件損害賠償債務が金二四二五万八一八一円を超えて存在しない旨の確認請求部分はいずれも理由があるが、その余の請求部分は、いずれも理由がないことに帰する。

第二反訴

一1  反訴請求原因(一)、(二)の各事実は、当事者間に争いがない。

2  右事実に基づけば、原告会社には、自賠法三条により、原告辻には、民法七〇九条により、被告の本件損害を賠償する責任があるというべきである。

しかして、原告等の各本件損害賠償債務は、不真正連帯関係に立つと解するのが相当であるから、原告等は、連帯して被告に対し、本件損害賠償責任を負うというべきである。

二  被告の本件損害について判断する。

1  治療費金六七五万四九三〇円、装具代金五万六〇五〇円、交通費金五七万七一〇〇円、本件後遺障害分慰謝料金四〇三万円は、当事者間に争いがない。(なお、慰謝料の金額は裁判所による評価の問題であるから訴訟上の自白は成立しないと解するのが相当であるが、本件においては、当事者間に争いのない被告の本件後遺障害の該当障害等級等に鑑み、当裁判所も、被告の本件後遺障害分慰謝料は金四〇三万円をもつて相当と認める。)

2  そこで、以下、争いのある被告の本件損害費目について判断する。

(一) 入院雑費 金一九万三〇〇〇円

(1) 被告の入院期間が一九三日であること、被告が右入院期間中雑費を支出したことは、当事者間に争いがない。

(2) 被告の本件入院期間が昭和五八年九月二一日から昭和五九年三月三一日までであることは前叙のとおり当事者間に争いがないところ、右年代を考慮すると、本件事故と相当因果関係に立つ障害(以下本件障害という。)としての入院雑費は、一日当り金一〇〇〇円の割合で合計金一九万三〇〇〇円と認めるのが相当である。

(二) 入院中の付添看護費 金三五万七〇〇〇円

(1) 被告の本件入院期間中昭和五八年九月二一日から同年一二月三一日まで一〇二日間被告の家族が付添看護に当たつたことは、当事者間に争いがなく、右付添看護費が本件損害に当ることは、原告等においても争わないものと解される。

(2) しかして、本件障害としての右付添看護費は、一日当り金三五〇〇円と認めるのが相当である。

(3) よつて、被告の本件損害としての右付添看護費の合計は、金三五万七〇〇〇円となる。

(三) 休業損害 金一九四四万五六七六円

(1) 被告が本件事故当時阪急六甲駅北側で「りんご白書、ポプリの部屋」という名称でポプリ及びその関連商品の卸し小売等の自営業を営んでいたことは、当事者間に争いがない。

(2)(イ) ところで、被告は、本件事故当時右営業により少くとも一か月金一一〇万円の収益を得、被告の右収益に対する寄与率は七〇パーセントであつた、それ故、右金一一〇万円を同人の本件休業損害算定の基礎収入として採用すべきである旨主張する。

そこで、被告の右主張中同人の右営業に対する寄与率の点はさて置き、先ず、右基礎収入の点について検討する。

(a) 確かに、被告本人(第一回)尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第五号証の一ないし三、第六ないし第八号証、第九号証の一ないし六、第一〇号証、第一一号証の一ないし一七、第一二号証の一ないし一六、第一三号証の一ないし七二、第一四ないし第二一号証、被告本人(第二回)尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第二六、第二七号証、第二八ないし第三〇号証の各一、被告本人の右各供述を総合すると、被告の右主張事実が肯認されるかの如くである。[ただし、被告本人(第一回)の供述によれば、同人は、昭和五八年度税の確定申告をしていないこと、それは、同人において申告する必要がないと考えたためであること、したがつて、同人において同人の所得に関する税金を支払つていないことが認められる。]

(b) しかしながら、一方、証人山本明利の証言により真正に成立したものと認められる甲第一、第二号証、右証人の供述を総合すれば、ポプリ及びその関連商品については昭和五七年から昭和五八年にかけてブームを迎え最盛期に達したが、その後右ブームも去り、ポプリ及びその関連商品の販売、ポプリ教室における開講は急速に衰退したこと、右ブームの衰退に伴ない、デパートのポプリ関係販売では、その売上げ高が最盛期の二〇パーセントないし三〇パーセント程度に落込み、ポプリの販売のみを行う販売店では、現在でもレース袋詰入り、容器入り等の販売を継続しているものの、その売上げ高は最盛期の五〇パーセントないし七〇パーセントの売上げ減となつているし、又、ポプリ教室は、受講生が集まらないので開講できず、ほぼ壊滅状態にあること、かかる状況からして、被告が本件事故に遭遇しなかつたとしても、被告の営業が経営不能に陥入る可能性は否定できず、仮に被告の右経営が継続し得たとしても、その収益は最盛期の三〇パーセント以下になる可能性が大であることが認められる。

(c) 右(b)の認定各事実に被告が昭和五八年度税の確定申告をしておらず、したがつて、同人の所得を公的に証明する資料がないことを併せ、右認定各事実と前叙(a)の事実とを対照すると、被告の前叙主張事実は、結局真偽不明というほかはない。

しかして、被告の前叙主張事実に関する証明責任は同人にあると解するのが相当であるから、右主張事実の右真偽不明による不利益は、被告に帰せざるを得ない。

よつて、被告の右主張事実を採用することができず、被告の右営業に対する寄与率については判断の必要を見ない。

(ロ)(a) ただ、被告が本件事故当時心身ともに健全で就労し収入を得ていたことは、前叙認定から明らかである故、被告個人の本件休業損害算定の基礎収入は、公的統計資料、就中賃金センサスに求めるのが相当である。

しかして、被告の本件治療期間については、前叙のとおり当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第四号証の五、被告本人(第一回)尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告は本件事故当時三九歳(昭和一八年一一月一日生)であつたところ、本件治療期間中休業せざるを得なかつたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(b) そこで、右認定にしたがい、被告の本件休業損害を算定すると、次のとおりとなる。

(Ⅰ) 昭和五八年九月二一日から同年一二月三一日までの一〇二日間分。

昭和五八年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計男子労働者学歴計三五歳~三九歳までの平均賃金日額(以下、単に年度別と年齢別のみを示す。)金一万二〇七一円。(円未満四捨五入。以下同じ。)

右期間の休業損害(以下、金額のみ示す。)は、金一二三万一二四二円。

(Ⅱ) 昭和五九年一月一日から同年一二月三一日までの三六六日間。

昭和五九年度四〇歳~四四歳までの平均賃金日額金一万三七七七円。

金五〇四万二三八二円。

(Ⅲ) 昭和六〇年一月一日から同年一二月三一日までの三六五日間。

昭和六〇年度四〇歳~四四歳までの平均賃金日額金一万四二三四円。

金五一九万五四一〇円。

(Ⅳ) 昭和六一年一月一日から同年八月二九日までの二四一日間。

昭和六一年度四〇歳~四四歳までの平均賃金日額金一万四六一二円。

金三五二万一四九二円。

(Ⅴ) 右合計金一四九九万〇五二六円。

(c) ところで、原告において、被告の負担したテナント料一か月金一二万七二九〇円の三五か月分合計金四四五万五一五〇円も被告の本件休業損害となることを自認している。

よつて、右金四四五万五一五〇円も、被告の本件休業損害と認める。

(d) 右認定説示を総合すると、被告の本件休業損害の合計は、金一九四四万五六七六円となる。

(四) 本件後遺障害による逸失利益 金二二九五万九七〇五円

(1) 被告の本件受傷が昭和六一年八月二九日症状固定したこと、同人に障害等級一〇級一一号該当の後遺障害が残存することは、当事者間に争いがなく、被告が昭和一八年一一月一日生の男子で本件事故当時身心ともに健全であつたこと、被告個人の収入が賃金センサスによるのが相当であるところ、同人の昭和六一年度の収入が日額金一万四六一二円と認められることは、前叙認定のとおりである。

(2)(イ) 成立に争いのない乙第三号証、被告本人(第一回)尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、被告の本件後遺障害の他覚的内容は、左眉部及び鼻根部の創痕、左足根部に骨疎損部があり足根骨とⅠ―Ⅴ趾までの中足骨が骨性癒合し全く可動性を認め得ず、左足関節及び各趾関節に多少の機能障害があり、左各趾に僅かな短縮が存在し、左足背に創痕陥没があつて浮腫状をなし全体に硬化扁平状に変形し、更に左下肢の筋萎縮が存在するというにあること、被告は、右後遺障害のため立つていることも歩くことも二時間が限度で、一日二四時間中足部痛に襲われていること、そのため就労が極めて制限され、もとより本件事故当時の就労状態には及ばず、したがつて、その収入も激減していることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(ロ) 右認定各事実に基づけば、被告は、現在、本件後遺障害によりその労働能力を喪失し、そのため経済的損失、即ち実損害を蒙つているというべきである。

しかして、同人の右労働能力の喪失率は、右認定各事実に所謂労働能力喪失率表を参酌し、二七パーセントと認めるのが相当である。

(3) 被告が本件症状固定時四二歳であつたことは前叙認定から明らかであるところ、同人の右労働能力の喪失期間は、同人の前叙認定にかかる本件後遺障害の内容に鑑み、同人の就労可能年数と同じく六七歳までの二五年間と認めるのが相当である。

もつとも、被告本人(第一回)は、同人の本件後遺障害の内、足部について医師から一〇分の内六分の割合で良くなる可能性があると告げられた旨供述するのが、右良くなるという後遺障害内容は前叙本件後遺障害内容の内いかなる部分を指すのか、又、その良くなるという点の内容程度等については、右供述自体から明確にならないし、右供述内容を補強するに足りる的確な証拠もない。

よつて、被告の右供述も、右認定説示の妨げにならないというべきである。

しかして又、原告等は、被告の本件後遺障害の内容は経年的に改善される故、同人の労働能力喪失率も一定年月の経過とともに低減して行くと考えるべきである旨主張する。

しかしながら、原告等の右主張事実については、その医学的根拠を含めこれを肯認するに足りる客観的に的確な証拠がない。

よつて、原告等の右主張事実も、理由がなく採用できない。

(4) 以上の認定各事実を基礎として、被告の本件後遺障害による逸失利益の現価額を、ホフマン式計算方法にしたがつて算定すると、金二二九五万九七〇五円となる。(ただし、新ホフマン係数は、一五・九四四一。)

(1万4,612円×365)×0.27×15.9441≒2,295万9,705円

(五) 入通院慰謝料 金二二〇万円

被告の本件入通院期間は、前叙のとおり当事者間に争いがない。

右事実に基づけば、被告の本件入通院分慰謝料は金二二〇万円と認めるのが相当である。

3  叙上の当事者間に争いのない事実及び認定説示を総合すると、被告の本件損害の総計は、金五六五七万三四六一円となる。

三  損害の填補

被告が本件事故後自賠責保険金金三三二六万〇二八〇円を受領したことは、当事者間に争いがない。

右事実に基づけば、被告の右受領金金三三二六万〇二八〇円は、本件損害の填補として被告の前叙損害総計金五六五七万三四六一円から控除されるべきである。

しかして、右控除後の右損害は、金二三三一万三一八一円となる。

四  弁護士費用 金九四万五〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、被告は、原告等が本件損害の賠償を任意に履行せず、しかも本訴債務不存在確認訴訟を提起されたためそれに応訴せざるを得ず、弁護士である被告訴訟代理人に本訴に対する応訴と反訴提起を委任し、その際相当額の弁護士費用を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟追行の難易度、その経緯、前叙請求認容額等に鑑み、本件事故と相当因果関係に立つ損害としての弁護士費用は、被告の主張どおり金九四万五〇〇〇円と認めるのが相当である。

五  結論

叙上の認定説示を総合し、被告は、原告等に対し、各自本件損害合計金二四二五万八一八一円及び弁護士費用金九四万五〇〇〇円を除いた内金二三三一万三一八一円に対する本件事故日であることが当事者間に争いがない昭和五八年九月二一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める権利を有するというべきである。

第三全体の結論

以上の次第で、原告等の本訴各請求ならびに被告の反訴各請求は、前叙認定の限度で、それぞれ理由があるから、その範囲内でそれぞれこれ等を認容し、その余は、理由がないから、それぞれこれ等を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、九五条を、反訴に関する仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鳥飼英助)

事故目録

日時 昭和五八年九月二一日午後一〇時三五分頃。

場所 神戸市灘区鶴甲五丁目一番六号市道石屋川甲有野線路上。

加害(原告)車 原告辻運転の普通貨物自動車。

被害者 歩行中の被告。

事故の態様 原告車が本件事故直前六甲山方面から神戸市内方面に時速約七〇キロメートルで進行していたところ、本件事故現場において、滑走し、ガードレールを越えて歩道上に転覆して、折から右歩道上を歩行中であつた被告に衝突した。

以上

計算書

5,182,900×0.27×7.9449=11,117,958

5,182,900×0.2×3.039=3,146,953

5,182,900×0.15×2.6352=2,048,696

5,182,900×0.1×2.3281=1,206,630

11,117,958+3,146,953+2,048,696+1,206,630=17,520,237

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